第75回
さすがは松山千春だ、と唸らせるすごい“弾き語りコンサート”だった!
2018/05/10
千春の春の全国ツアー〈弾き語り〉はそのタイトル通りに、千春ひとりでの〈弾き語り〉だが、千春の原点が〈弾き語り〉だけに本家本元のすごみを感じたのは私だけではなかったと思う。
4月20日から6月27日まで22本のツアーだが、その6本目にあたる5月9日の東京・国際フォーラムホールAで見た。
「『恋』の別れた主人公の2人はその後どうなったのか?」
幕が開くと大きなステージ上には千春と何本かのギターだけ。これだけで5000人収容の大ホールを完全に支配するということは至難の業だ。それはそうだろう。歌とおしゃべりだけで5000人のリスナーを説得しなければならないからだ。歌唱力というか、ここまでくると人間力の勝負と言っても過言ではない。ということは、アーティストにとっても真の実力が問われるということだ。
コンサートは「これ以上」からスタートした。初めから歌が立っていて力強い。「あたい」「もう一度」と進むうちに自然とターボがかかって、もう千春の歌の世界は満開だ。
続く「恋」。誰もが知っている名曲だが、これに関しては千春のおしゃべりがよかった。「恋」は千春の数多いナンバーの中で最もカラオケで歌われる機会の多い歌だが、この曲を好んで歌う人たちは、セピア色の風景にたたずむ別れた女のことを思い出して感傷にひたっているのだろう。つかのまでも現実を忘れて美しい思い出にひたりたい。そう思いながら「恋」を歌う、私もそんなひとりである。
「『恋』に出てくる男と女。あの2人、その後どうなったのかな? 俺は並のフォーク・シンガーじゃないので、その後の2人がどうなったのか? ちゃんと歌っている」
千春がそう言って歌い始めたのが、男のことを歌った「電話」と女のことを歌った「燃える日々」だ。この3曲は千春のおしゃべりとセットになっていてドラマティックで良かった。これはもはや“芸”と言っていい。
「安倍首相から千代の富士、任侠の世界まで言いたい放題!」
2部は「伝言」から始まった。続いて「網走番外地」、これは高倉健が歌う任侠の歌だが、腰がしっかりと入っていて骨太の歌だった。続く「風雪ながれ旅」と併せ、北海道命名150年にあたり千春本人が選曲、カバーした5曲入りのミニアルバム「北のうたたち」からの選曲で、千春の北海道愛を強く感じるコーナーだった。
そして、この後、亡くなった親友の大横綱・千代の富士に熱いメッセージと想いをぶつけた語りと歌は圧巻だった。続いては恒例の千春の辻説法。安倍晋三首相の話から審議拒否を続けた野党批判まで、千春ならではの鋭いメッセージをぶちかましながら「生きている」と上手く歌に持っていくあたりはこれまた技と言っていい。そして本編は「途上」「真っすぐ」で幕。
「ラストソングは千春が全身全霊を捧げた“命の歌”『炎』の絶唱!」
アンコールは通常のコンサートではヒット曲を取り入れた歌唱ショー的な作りだが、今回は〈弾き語り〉ということもあり、〈おしゃべりと歌〉のワンセットであくまでも聴かせるという趣向だった。
「長い夜」の弾き語りは新鮮だったし、千春のギター伴奏で5000人のリスナーがカラオケを大合唱するスタイルの「大空と大地の中で」もこれまた圧巻だった。
(文/富澤一誠)
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