第64回
〈史上最強の作詞家〉阿久悠の史上最強のリスペクトコンサート!
2017/11/24
ヒット曲の多さ、総セールス数においては秋元康が阿久悠の記録を抜いたみたいだが、野球に例えるならば、秋元康はイチローのようにヒット曲をコツコツと積み上げていくタイプ。一方、阿久悠は守備範囲が広く、言ってみれば〈3冠王〉タイプではないだろうか?
とにかく、演歌、歌謡曲から、フォーク、ニューミュージック、ポップス、ロック、さらにはアニメソング、キッズソングまで、何でもござれのオールラウンド・プレイヤーなのだ。正直言って、こんな作詞家はいない。だから、私は阿久悠こそ〈史上最強の作詞家〉である、と断言するのだ。
「〈時代のマニフェスト・ソング〉を書き続けていた作詞家!」
守備範囲が広いだけに何でもござれの便利屋かというと、決してそうではない、というところが阿久悠のすごいところだ。阿久悠は〈時代のマニフェスト・ソング〉を書いていた、と私は思う。時代の気分をいち早くすくいとり、これからの時代はこうあるべきだという方向性を示す。
たとえば、男と女の別れ方の場合はお互いがイーブンで決めてから前に進もうと提示した「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)のように。いうならば、時代の気分を先取りした〈時代のBGM〉が阿久悠の歌かもしれない。ということは、逆に言えば、〈時代のBGM〉ともいうべき彼が作った歌を並べると、時代そのものがあぶり出されるということだ。まさに時代が音楽を作り、音楽が時代を作る、ということだ。
「いきなり八代亜紀の「舟唄」「雨の慕情」で始まり、和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」、五木ひろしの「契り」で幕!」
11月17日(金)、18日(土)の2日間にわたって、東京有楽町の東京国際フォーラム・ホールAで、〈没後10年・作詞家50年メモリアル 阿久悠リスペクトコンサート~君の唇に色あせぬ言葉を~〉と題された一大イベントが行なわれた。
こういうイベントに付きものの進行役の司会は置かず、リリー・フランキーによる、阿久悠の未発表詞「いずこ~ふたたび歌を空に翔ばそう」の朗読から静かに始まった。
そして、いきなり八代亜紀が登場して「舟唄」を歌った。初めからメインディッシュか?とびっくりさせる選曲だが、歌い終わって八代が阿久悠とのなれそめを語ってから次の「雨の慕情」を歌うと、聴き慣れた名曲が〈新鮮〉に聴こえてくるから不思議である。
以下、このパターンの繰り返しだが、いっこうにあきさせないのは、それだけ詞と曲がいいという〈作品力〉と、歌い手の〈歌力〉がすごいということだろう。
続いては大橋純子が「たそがれマイ・ラブ」。沢田研二のかわりに期待の新星・林部智史が「時の過ぎゆくままに」を熱唱。荷が重いのではないかと心配したが、見事に歌いきったところはさすが〈カラオケバトル〉の年間チャンピオンだ。
他にもずらりとすごい作品が並んだが、そんな中でも「これは……」と改めて意識させられたのは北原ミレイの「ざんげの値打ちもない」。これは歌というよりも“演劇”と言った方がいい。劇画詞のデフォルメが効果的である。
Charの「気絶するほど悩ましい」も良かった。天才ギタリスト・Charの才能を引き出した、ということで阿久悠はすごいプロデューサーである。この曲がなかったらCharは今のようなメジャーなギタリストにはなっていなかっただろう。
ステージを盛り上げたのは山本リンダの「どうにもとまらない」「狙いうち」のセクシーソングだ。今から40年以上も前にこんなにすごい歌がよく作れたものだと感心してしまう。時代を超えて、今でも衝撃を持って迎えられるということは、阿久悠は時代を超越しているということだ。
和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」は、ナンバーワン・ヒット曲にはなれなかった、聴き手のハートに残るナンバーワン・ソングかもしれない。
同じように、五木ひろしの「契り」もそうで、これはもう従来の歌謡曲を超えた〈阿久悠文芸作品〉と言っても過言ではないようだ。
ラストは出演者全員による「青春時代」の大合唱。もちろん、私も含めて会場も思い思いに歌って、まさに〈阿久悠ワールド〉の完成である。
帰路に着きながら、「明日も見に行きたい」と思ったのは私だけではないだろう。そんなふうに思わせるコンサートが今までにあっただろうか……。
(文/富澤一誠)
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