第29回
聴衆の拍手が熱かった秦基博コンサート!
2016/06/09
ライブにおいては聴衆の“拍手”がその内容の良し悪しを教えてくれる。その意味では聴衆の拍手がライブファンにとってのバロメーターだ。
6月3日(金)、東京国際フォーラム ホールAで〈秦基博 HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016 -青の光景-〉を見た。
客電が消えて秦がステージに出てきた瞬間、割れんばかりの拍手が湧き上がり、天井から降りそそいできた。まさに拍手のシャワーが客席に降ってきたという感じだった。このとき私は、今が最も“旬”のアーティストに対する聴衆の熱い期待感が、拍手に変わって降ってきたのだ、と思った。
1曲目「嘘」から始まり「ダイアローグ・モノローグ」「花咲きポプラ」「ROUTES」「鱗(うろこ)」と進むにつれてさらに拍手は熱くなっていた。そして圧巻は秦が「美しい穢れ」「恋はやさし野辺の花よ」を弾き語りで歌ったときのことだ。拍手の強さが一段と増し音量も増えたのだ。これが秦の人気の秘密であり魅力なのかと思わざるをえなかった。
彼は2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー以来、弾き語りライブを中心に地道な活動を続けてきた。〈GREEN MIND〉と名づけられた弾き語りライブは、まさに彼の原点といっていい。彼がなぜ弾き語りライブにこだわるのか? 「歌は生きている」ことを知っているからだ。
歌い手はその日によって体調も違えば、当然のことながら精神状態も異なっている。つまり、歌い手は人間なので、全く同じようには二度と歌えないということ。
一方、私たちリスナーもその日によって体調も精神状態も異なっている。こちらも一日たりとも同じ状態ではない。精神的に安定している時は、「この歌はいい」と思う歌がいくつかある。そうなった時、ベストテークの歌は、リスナーサイドから見てもベストテークとなる。
つまり、歌い手サイドのベストテークとリスナーサイドのベストテークが一致した時に初めて“いい歌”ということになり、そう思える人がたくさん揃った時に歌はヒットするのだ。その意味で、秦は弾き語りライブでベストテークをしながらファンをひとりずつ獲得していき、11年冬には武道館を満員にできるほどの地力を身につけたのだ。
そのことがこのコンサートを見ているとよくわかった。さらに本編は進む。バンドとの相性もいいようだ。コンパクトな編成だがTOO MUCHではなく、十分に聴かせてくれるところが素晴らしいと感じた。ラストは「スミレ」「ひまわりの約束」ときて拍手は一気に爆発した。映画〈STAND BY MEドラえもん〉の主題歌に起用されたことがきっかけで「ひまわりの約束」はヒットし、それに伴って彼自身もブレイクしたからだ。
アンコールは「聖なる夜の贈り物」「トラノコ」ときてオーラスは弾き語りで「僕らをつなぐもの」。拍手は鳴り止まないほどだった。
熱い拍手のシャワーを全身に浴びて外に出たとき、いいライブだなと実感したのは私だけではないだろう。
(文/富澤一誠)